樹野 「では改まって、よろしくお願いします。」
佐々木「よろしくお願いします。って、やりにくいね」(苦笑)
樹野「なんせ、もう佐々木さんと知り合って15年以上ですから」
佐々木「お互い歳も取るわけですね。」
樹野 「まぁ、そう言わないで。コラム的な記事があったほうがいいって言ったの佐々木さんじゃないですか?」
佐々木「そうなんですけどね(笑)」
樹野 「まずは、第一回ということで、やはりあの大ヒットしたベストセラー『グーグル完全活用法』の誕生秘話というところからお聞きしたいんですけれど……」
佐々木 「もうだいぶ経ちますよね。当時、私は宝島社を辞めて、元文藝春秋、週刊文春編集長の花田紀凱さんが編集長をやっていた『編集会議』という雑誌とか、宝島社のムックとかを主にやっていたんですけれど、「フレア」という編プロにいたこともあったんですよ。」
樹野 「あのときは『フレアって…』と笑わせてもらいました。ファイナルファンタジーかよって。」
佐々木 「それは事情があって、前の社名が「アレフ」という社名で(笑)、当時、オウム事件とかあって、まったく100%関係無かったんですけれど、いろいろ取材やら何やらくるわ、大変だったらしいんですよ。」
樹野 「(笑)」
佐々木 「それで、あるときフレアの社員の一人が、三笠書房という出版社に企画を出しに行くときがあって、普通なら社員が出てきて終わりだったはずなんですが、いまはもう役員になられているのかな。当時の文庫の編集長の清水さんと出会ったんですね」
樹野 「それは創藝舎ができる前ですよね」
佐々木 「もちろん、でも清水さん曰く『この人の眼は違っていた』と言われたんですが。まぁ何人かで行ったなかで、『この人なら企画を推しても、きちんと売れる売れないの判断も含めて、しっかり受け止めてくれるに違いない』というのを感じたんですよね」
樹野 「一種の出会いですよね」
佐々木 「私と樹野君みたいなもんですね(笑)。で、最初はぺーぺーの仕事をコツコツやってた。文章力は最初から買ってくれてたらしくて、リライトの仕事が多かったかな。『ナンバ若返り法』とか『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』の続編のリライトをガシガシとやってた。それで、こいつはイケルんじゃないかと清水さんに思ってもらって、文庫のエクセル本とか『頭のいい人、悪い人のパソコンの使い方』とかを執筆するようになった。」
樹野 「影の努力があったんですね。その頃はもう創藝舎を起ち上げてました?」
佐々木 「うーん、どうだろう? 忘れちゃった(笑)。でも、ちょうどその頃に、いろんな仕事が入ってくるようになって、登記もその頃にやったんじゃないかなぁ。少なくとも、『グーグル完全活用法』の前に、何冊か共著で本は出してましたね」
樹野 「直接、キッカケになったのはなんでしょう」
佐々木 「あの当時、グーグルというのがすごい巨大企業になっていく過程で、ビジネス誌でも「グーグルが過去最高益!」とかよくやってたんですよ。」
樹野 「ありましたね」
佐々木 「で、ある時に、清水さんと何気なく喋ってたんですが、「佐々木さん、いつもいろいろなことをすぐに答えてくれるんですけど、どうやって調べているんですか?」と言われて、「いや、グーグルで検索して……」と言うと、「検索って言っても、キーワード打ち込んでもどこのホームページを見ればいいのかわかんないですよ」と言われたんです。
そこで、グーグルで検索するときに、たとえば「渋谷で美味いラーメン屋を探すなら“渋谷 ラーメン屋”で検索すれば一発ですよ」と言ったら、清水さんの眼が変わりまして……(笑)」
樹野 「眼が変わった……あるんですか? そんなこと(笑)。」
佐々木 「あるんですよ。凄腕の編集者には、面白い企画に対する嗅覚というのがあって、まさに眼が変わったんです。
そこで、たとえば『検索ひとつとっても「マイナス検索」を使えば、余計な情報を省いてこんなことができます』
『「"」で囲むと完全一致検索になるので、その検索キーワード以外の情報を遮断できて、一発で欲しい情報に辿りつけますよ』
『あとグーグルマップというのがありましてね。「半蔵門から飯田橋」とか入力するとルートを示してくれるとか』
『電卓にもなりますよ、「102+578」と検索ボックスに入れたら「102 + 578 = 680」と表示してくれますよ』
と、その場で思いついたことをポンポンポンと3つぐらいそのまま喋ったら、清水さんの眼が爛々としてまして、『それ、本になります! 行きましょう!』と(笑)。
樹野 「そんなに簡単に決まるんですか?(笑)」
佐々木 「清水さんは文庫の編集長だったし、責任者だったから話が早かったです。やると決まったらもうあとはフルスピードですね。その場で「一刻も早く本にしたいからネタをください」「これは雑学っぽいほうが売れますから、とにかく具体的なケースをどんどん出してください」と。
樹野 「雑学っぽいほうが売れるから、そういう本にしようというわけだったんですね」
佐々木 「そうなんですよ。そこから、できる限り早く本にしたいから、協力者を集めてくれと言われて、ライターの高橋さんに連絡して、そこから何も無いところからネタを絞り出して……100個以上はネタ……というか使い方の具体的な例文を出したかな。それもあくまでも身近なところでテーマを固めて欲しいと言われて。当時、既にGmailとかグーグルアースとかいろんな使い方はあったんですが、そういうのは「文庫の読者向けじゃない」と全部ボツにされて、練り直して……。原稿書きながら、ネタをひねり出しているような状況でした」
樹野 「いま振り返ってみても、良くできていると思います」
佐々木 「あれはみんなが知恵を出し合った結果です。レイアウトとかも、キーワードに何を入れればいいのか明確なんですよね。あれも清水さんのアイデアです。だから、あの本の企画者は誰でもなく、三笠書房の清水さんの企画なんですよね。私はさんざんボツを喰らいながら、高橋さんと馬車馬のようにネタを出して、原稿にしていっただけで……(笑)」
樹野 「相当な修羅場だったんですね。」
佐々木 「まさに修羅場でしたね。家に帰ると眠ってしまうからマンガ喫茶にノートパソコンを持ちこんで、ひたすら原稿書き。着手から校正、青焼きまで1ヵ月ぐらいしかかからなかった。あとは苦労したのはコラム。使えそうなネタはぜんぶ本文に詰め込んでいるので、コラムに回せるネタがほとんど残ってなかった。それでも「小難しい」「面白くない」とボツにされたのはありましたが。」
樹野 「でも、そういう内情がありながら38万部の大ヒット。凄いですね」
佐々木 「文庫の初版部数ってそんなに多くは無いんですが、この本に関しては違ってた。初版で6万部刷るといわれて、思わず『え、責任取りませんよ』と言った記憶があります(笑)。でもおかげさまで、初版で八重洲ブックセンターでは文庫で1位、紀伊国屋では総合4位に入りました。紀伊国屋の総合4位にはちょっとわけがあって……。」
樹野 「というのは?」
佐々木 「1位〜3位までが『ダヴィンチ・コード』の上、中、下だったんです(笑)」
樹野 「それは抜けませんね(大笑)」
佐々木 「ちょっとしたブームになりましたね。日本経済新聞からも取材を受けたし、サンケイリビングでも取材されたり……。普段取材する側の立場なので、なんだか変な感じでした。」
樹野 「そのあともシリーズ化されましたよね」
佐々木 「『ヤフージャパン完全活用本』、『できる人のグーグル仕事術』はシリーズですね。『フリー完全活用本』は別ジャンルですけれど」
樹野 「別ジャンルなんですか? シリーズものとばかり思ってました」
佐々木 「いや、『グーグル完全活用法』が売れた目立っているだけで、じつは『グーグル完全活用法』自体が、三笠書房のシリーズ本の一角なんですよ。」
樹野 「そうなんですか? てっきり独立した企画かと……」
佐々木 「いやいや、ぜんぜんそんなことはなくて、それよりももっと昔に三笠書房から『インターネット完全活用本』という本が出ています。ようやく世間に『インターネット』が浸透しだした頃ですね。だから、『グーグル完全活用本』もシリーズのひとつという位置づけなんです。『フリー完全活用本』は、その頃、『インターネット完全活用本』を手がけていた方との共作です。私が原稿をガシガシと書いて、それを文庫の読者向けに丁寧にリライトして頂いたという感じです。」
樹野 「いかがですか? 『グーグル完全活用法』をいま振り返ってみて。
佐々木 「あれからもう5年ですか。早いものですが、いまだに読んでくださっている方がいらっしゃるのは嬉しいですね。いまだに「マイナス検索」とか「完全一致検索」とか浸透していないので、「ここをこうやれば、こう一発で見つかるじゃん」と教えると、「おぉっ!」と驚いて嬉しがってくれるのは嬉しいですよ。」
樹野 「最後に、グーグル自体も5年前から随分と変化してきましたが、振り返ってどうですか?」
佐々木 「そうですね。グーグルのサービスもいろいろと進化をしましたが、ストリートビューのようにもう本で伝えなくても広がっているサービスもあれば、あっさりと撤退していったサービスもある。ただ、サービスの量が増えすぎて、いろんなサービスがありわからない、伝えられていないという部分もある。そういう意味ではもう一度やる甲斐はあるでしょうね。
ただ、言えることはサービスの紹介だけでは、単なるカタログになってしまう。『グーグル完全活用法』があれだけ成功したのは、「これでもか、これでもか」と、具体例をとことんまで突き詰めて、誰にでもわかりやすい形にコンパクトにまとめ、なおかつアイデアを凝縮したからだと思います。そういう意味では、この本の企画者は三笠書房の清水さんであり、彼無しではベストセラーにはなり得なかったでしょう。
また、清水さんの叱咤激励にヒーヒー言いながらも、ネタを出し続けてくれた、共著の高橋さんの力なくして、この本は生まれなかった。
この本は、私の力というよりは、バッティングピッチャーのように延々と球を投げ続けた私に、真っ向からガンガンと打ち返してくれた三笠書房の清水さん無くしては成立しなかった本だと思っています。」
聞き手:ライター 樹野 将吾(きの しょうご)
1975年、東京都生まれ。和光大学、人間関係学部(現代人間学部)、心理教育学科。岸田秀氏のもとで、精神分析学を学ぶ。当時のSME(ソニーミュージックエンターテインメイント)勤務を経て、フリーランスの編集、ライターとなる。創藝舎の数々の書籍、ムック制作に携わる。 |